ロートの配信(11)
※引き継ぎ、語り手はロートです。
「なっ、何を注射器で入れるつもりですか!?」
ロートは焦りましたが、ロープで身体を縛られているため、逃げる事も闘うことも出来ませんでした。
「とりあえず、打ってから説明する」
そう言って、白衣を着た中年の男性は、ロートに注射を打ちました。
すると突然、まばゆい光がロートを包み込み、しばらくして消えていきました。
「ワシの名前は、松尾博士。違法なヴァンパイアで、非合法科学者だ」
「…で、アンタがさっき打った注射は何の注射だったの!?」
「アンタではない、松尾博士と呼べ」
「………」
「あれは、黒魔術の魔法薬だ」
「黒魔術!?注射器の魔法自体、聞いた事ないんですけど」
「今、聞いただろ。ワシが昨日、発明した薬だ」
「昨日って…。っていうかアンタ、急に身体デカくなってない!?」
「アンタではない!松尾博士だ。あれ!?ずいぶんと容姿が子どもに戻ってしまったな。こんな副作用は想定していないぞ」
「えっ!?どういう事!?」
混乱するロートに、松尾博士が鏡を持ってきました。
「嘘!?子どもの頃の姿になってる!?」
ロートはなんと、自分が12歳くらいの頃の容姿に戻っていました。
「どういう事!?」
「ワシもよく分からん。あくまでワシは、打ったら死ぬ毒薬注射魔法を開発したつもりだったんだが、死んでもいないし、想定していない副作用も起きているし…」
「おい!コラ!定期的にお金を払ってもらう算段だったが、1回目で殺すつもりだったんかい!」
敵のはずのマッチョな男性までが、これには驚いたようでした。
「毒薬なんて注射したの!?酷い!!」
ロートは怒り狂ってしまいました。
そのとき、部屋に警察官が乱入してきました。
しかし日本でよく見られる警察官とは制服が微妙に違う、女性の警察官でした。
「こちら、異世界警察です。指名手配犯を2名発見。今から撃破します」
松尾博士とマッチョな男性に向け、異世界警察官がロケットランチャーを容赦なく発射します。
数分後…。乱闘の末、松尾博士とマッチョな男性は捕らえられました。
警察官の女性は軽い怪我を負いましたが、命に別状はありません。
ロートとミサトさんも無事に保護されました。
そのとき、部屋に大慌てのドラネさんが乱入してきました。
「みんなごめん。軍事演習長引いちゃった。私がいない間に、いろいろ大変な事が起きちゃったみたい!」
☆
ドラネさんが軽く指を鳴らした瞬間、ロートと隣にいる女性を縛っていたロープが、はじけるようにして切れました。
『こちら、異世界警察です。シャボリ地方の王女にて士官学校の教官である、ドラネ・バタ・シャボリさんで間違いないですよね?』
「…はい、そうですが」
「あなたが留守にしている間に、ロート・ハール王女と人間女性1名が誘拐され監禁されていました。
もちろん、悪いのは加害者でドラネ王女を責めるつもりはありません。
しかし異世界警察としては、もう少しセキュリティ強化することをオススメします。
それでは、容疑者2名の取り調べを開始します。
また何があれば、ご連絡お願いします」
そう言って異世界警察の女性警官は、松尾博士とマッチョな男性に取り調べを始めました。
ちょうどそのとき、ドラネ王女はロート王女の変わり果てた姿に驚愕の表情を浮かべました。
「ロート王女!?ですよね?」
「あっ、自分でもよく分からないのですが、変な魔法薬の注射を受けたら、どういうわけか子どもの頃の容姿に戻ってしまいました」
「ヤバくない?」
「ヤバいですが、それより隣にいる人間の女性は大丈夫でしょうか?」
女性はこの状況にもかかわらず、爆睡していました。
「大丈夫。寝てるだけよ。念のため魔法で異常が無いか調べてみたけど、特に問題はないわ」
「なら、良かったです。この状況で熟睡できる度胸が羨ましいです」
「たしかに」
ドラネさんが苦笑いしながらも同意してくださりました。
「は〜。よく寝た。って、ここどこ!?」
ロートと一緒に監禁されていた女性が、今ごろ起きたらしいです。
「私はドラネ。ミサトさんで間違いないわね?」
「あっ、動画に出ていらした方ですね。ミサトです。よろしくお願いします!って、なんでこんな場所に…」
「たぶん睡眠魔法をかけられたんだと思うわ。眠りにつく前の記憶は残ってるかしら?」
「深夜0時より少し前に、ホテルの一室の『会場』の前に着いていました。
待ち時間にスマホでゲームをしていたら、ふと気づいたときには目の前に2人の男性がいました。
マッチョな男性と、研究者っぽい感じの男性でしたね。
挨拶でもしようかと考えていたら、どういうわけか急に意識が朦朧としてきて…気づいたら、今いる場所にいたという状況です」
「そのマッチョな男性と研究者っぽい男性って、この2人かしら」
そう言ってドラネさんが写真を持ってきました。
「ええ、まさにその人です!」